仰木日向/まつだ ひかり『作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~』
- 2017/01/02
- 20:49
お軽い感じの作曲の教科書ってのは沢山あるもので、以前その中の一冊について記事を書きました。
梅垣ルナ『イメージした通りに作曲する方法50』
いかにもフラワー層向けって感じの商材でしたが、読んどいて良かったと思ってます。まあ、どんな本からでも何かしらは学べるもので。
だったらついでにもう一冊くらい似たようなのをと思い、『イメージした通り云々』よりも更に痛々しそうなふいんきの、↓の本を選んでみました。
仰木日向(著)/まつだひかり(イラスト);
『作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~』
ヤマハミュージックメディア
2016年6月24日初版
本体価格¥1600+税
発売日は去年の6月だから、わりと最近出たばかりの本です。
著者の仰木日向氏はラノベ作家。
仰木日向 作品一覧 著者略歴
そして「女子高生エフェクターを買いに行く」の、まつだひかり氏がイラスト担当。
女子高生エフェクターを買いに行く -YouTube
そして出版社はヤマハ。。。。。
ついにヤマハまでもがラノベに手を出してきました!!
ですがラノベってもうオワコンかもで、ちなみにオワコンは死語です。っても『作曲少女』はB6版。つまり文庫サイズより大きいので本当のラノベとは違います。お値段も1600円+ですし。ともかくそんな今頃になってラノベっぽい、だけど文庫サイズじゃない本を出してくる、このある意味とてもヤマハらしいずれたセンスに、私はハートを射貫かれました。ぜひともこれ読んでおかねば!
アマゾンのレビューは概ね好評のようで、それも読んでみようと思った理由の一つです。いや私的には取りあえず見た感じ的に良いわけがないように思われ、だから高評価してる人にとってはどこがどう良かったのか、自分で読んで確かめたい。
というか作曲の入門書はどれも似たり寄ったりで良いも悪いも無いのだけど、ただ『作曲少女』には、
・初心者がたったの14日間で作れるようになるという無茶設定
・音楽の知識は一切不要
・小説形式
という特徴があり、これは少々目新しい。つうかひどそう。でも「怖いもの見たさ」って気持ちは大事にしたいものですよね。図書館で借りれるなら読んどいて損は無かろう。で、好都合なことに文京区の図書館が蔵書してくれてたので、読んでみました。
その結果;
びっくりしました。この本はとても良いです。
客観的な良し悪しはさておき、私自身の好き嫌いで言うなら、とても好き。
ただ、全面的に手放しに良いとは言えない面があり、誰にでもおススメできるものでもない。
なので結論;
私にとってこの本は1/3の名著です。
1/3(さんぶんのいち)ってなんなんだよって話しですけど、皮肉ではありません断じてだ。1/3でも名著は名著。本気でそう思ってます。今回は借り物で済ませちゃったけど、いずれ改めて購入し私の蔵書に加えたい。なんだけど、
・まず第一に、私は作曲の初心者ではないので、この本が初心者のための教科書として優れてるかどうかは判断できません。
・そして第二に、私的にはどうしても承服できない点がいくつかあります。
・しかし第三、良いなと思える部分はとても良い。
以上をざっくり合計すると1/3の名著だっていう。ざっくりしすぎかもですけど。
ともかくこの本、も一度くり返しますけど良いなと思える部分はとても良い。だから少しくらいダメな点があっても気にしない。人の作ったものに対して完璧さなんて求めませんし。かつてマイルス・デイビスさんは仰いました。
「ジャズのレコードなんてたいていはクズ。アルバム1枚の中に本当にジャズらしい瞬間が8小節だけでも入ってたら、俺にとってはそれで十分名盤だね。」
*)ちょっとこれうろ覚え。ソースはロスト。大意は概ねこんなようだったって事で。
マイルス・デイビス -wiki
マイルスさんは毒舌家だから↑みたいな言い草になるのかもだけど、でもこれはホント彼の言う通りで、だってジャズのレコードなんてどれ聴いても退屈でしょ?ところが「そう感じるのは聴いてる自分が無能だから」と思ってしまうタイプの人はいるもので、そういう人ほどジャズ道に堕ちやすく云々てのはさておき;
ともかくほんの少しでも良いとこがあれば名盤だとするという作品観があるくらいなんだから、1/3も良いとこあれば、それはもう十分に名作だと申せましょう。だから『作曲少女』は名著。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
では、私が良いと思う1/3の要素は何かというとそれは、ノベルとしての魅力。この本は小説として優れてる。登場人物は、
教わる側=山波いろは;
「平凡」を辞書で調べたら私の写真が載ってるんじゃないかってくらいとにかく普通な高校2年生。山波は「やまなみ」と読みます。
教える側=黒白珠美;
くろしろたまみ。いろはのクラスメイト。すでにプロとして作曲家をやってる超人的な女子高生。愛称は珠ちゃん。
それと途中で少しだけ「テニス部で一番うまい子」というサブキャラが出てきて、これはかなり重要人物なのだけど、全体で正味約320ページある『作曲少女』の中で、その子が出てくるのはわずか8ページ。
あとはクラスのみんなとか家族とかのモブがほんの少し。
だからこの本の登場人物は事実上、いろはと珠ちゃんの二人だけ。いろはの主観で語る地の文と、途中一か所だけ珠ちゃんが語り手になる部分がある他は、二人の対話=会話文だけで構成されてます。ざっと見た感じ、「かぎかっこ」で囲われた会話体が80%くらいかな。
会話内容の大半は珠ちゃんによる作曲法の解説と、それを受けるいろはの疑問や戸惑い。そればかりでは単調で息が詰まりますから、まつだ氏による4コマ・マンガとイラスト数点が空気抜きの役割を。
他には補足説明用の図版が数ページ。DAWソフトの画像や鍵盤の模式図等はあるけど、五線譜はひとつもありません。
ちなみに『作曲少女』のページ数は、B5版で正味約320。だからこれ文庫サイズならたぶん上下2巻になって、お値段は2冊で1200円かそれ以上。だから単行本の1600円がとくべつ割高なのでもないですね。図版は文庫よりB5の方が見やすいですし。
クラスメイトにスーパー高校生がいるファンタジー設定。これはまあ、ラノベのテンプレ。
でも、その超人がとくに親しい間柄でもない主人公を気安く手助けしてくれるご都合主義は、なんか安直かな。
ともかくそこを起点にして、二人で「作曲」という課題に取り組む目的追求型ストーリーが展開されるのだけど、おそらく最終章=14日目で成功してハピエンドになるであろう結末は最初から見え透いてる、そんな大勝利物語。
なお、この物語の登場人物二人が目指してるのは「音楽に手も足も出せない完全初心者が、とにもかくにも最初の一曲をなんとか作り上げること」なので、その作曲レベルはとくにぜんぜん高くありません。歌詞のないインスト曲を作ります。
以上が『作曲少女』の、ノベルとしての基本スペック。
だったらこんなの、面白い物語になるわけがない、と思うじゃないですか?
ところがすごく面白い。初期設定での一番の弱点はご都合主義な所かと思うけど、しかしこれこそが、『作曲少女』を価値ある作品に変貌させるマジックの種になってるのだな。
この本の中身の大部分は、教わる側と教える側との対話。それでまず、教える側である珠ちゃんのセリフが出だしからいちいちカッコいい。ちょっと名言っぽいフレーズが小気味よく連射される。
なんだけど、それをレビュー記事でこまこま紹介するのは意味ないし、というかそれをするとただのネタバレだし、そういう「ちょっといい一言」の類はこの本を時どき拾い読みして楽しむのでいい。だからこそ私は、この本を自分の座右に置いときたいと思うのだし。
ともかく、珠ちゃんのかっこいいセリフは良い掴みです。私はまずこれで作品内に引き込まれた。この本はありがちな初心者本とはちょっと違うかも知れない、と思わせるものがある。
とはいえ名言ぽいフレーズが沢山あるというだけでは名著とまでは呼べない。『作曲少女』を面白くしてる原動力は、もう一段奥にある。というか珠ちゃんのセリフは、なぜか不思議なほど効く、刺さってくる。その理由を探るためため私はこの本を軽く分析し、その結果、この本は初心者だけでなく経験者も面白く読めて共感できる構造になってると判明。そこが私にとっての名著要素である1/3なのだけど、この件をちゃんと説明しようとするとやはりどうしてもネタバレ度が増してしまうし、『作曲少女』はあくまでも初心者のための教科書なのだという建前からすると、経験者にとっても面白い要素は副次的なものに過ぎないかもだし、だからこの記事では名著ではない2/3の方の説明を先に済ませ、ノベルとしての魅力云々は最後の方へ。そこまで読み進めようと思う物好きな人の目にだけ触れる場所に置いておく事にいたします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
という事でまず第一に、私は作曲の初心者ではないから、『作曲少女』が初心者にとって良いかどうかは分からないという点について。
いちおう自分の事を説明しておくと、私は小学生後半の頃に楽譜の読み書きと楽器の弾き方を覚え(ギターと電子オルガン)、それで早速一曲作ってみたというパターンの人でした。そこまでは全て独学。当時、自分の身近には大人も子供も、音楽やる人間なんていなかったし、学校の音楽の先生は歌声運動上がりのフラワー左翼だったから云々
中学になってからはブラバンに入り、ギター等を弾く同級生も増え始め云々
30歳になる少し前だったかにジャズ教室へ通い、そこでいわゆるジャズ理論を教わり、その後少ししてから↓の2冊、
それといわゆる芸大系の教科書を何冊か読み、あとは最近になって『イメージ通り云々』と『作曲少女』の2冊を読んだ。
世にあまた出回ってる初心者のための作曲本のうち、私が読んだのは以上の数冊のみ。だからこういった本一般の中身についてよく知ってるとは言えないのだけど、『作曲少女』には初心者用の教本として
・他の諸々と同じ、ごく平凡な点と
・他の本にはない、ユニークな点
の2面があると思う。でまず平凡な点について書くと、この本で説かれる作曲法は;
「既にある作品、既製曲、有名曲、に倣って、それをテンプレートとして利用する。」
というもので、それは他の初心者向け教材と何ら変わらない。これはポップスのお軽い教科書だけじゃなく、音大作曲科の学生用の本とか、ジャズ教室で使うテキストだって中身は同じ。
1.過去の作例を真似る技術を習得し、
2.それらを分析し法則性を導出し、
3.テンプレートとして利用可能な状態にまで抽象化し、
4.今現在の私にとって必要な形態に再構築する。
templateの意味 -weblio、 テンプレート (曖昧さ回避) -wiki
作曲の教科書に書かれてるのは、その本の見た目が高尚で難しそうであろうと、ペラいフラワーであろうと、全て概ね↑のような内容で、ただ、
・学習者を導入するための切り口とか、
・雰囲気作りとか、
・特定のジャンルに特化してるかどうかとか、
・目標設定とか
が、それぞれ違うだけ。あと上記1~4のどれに重きを置くかもいろいろ。だけど基本、作曲の教科書の中身、というか正味の部分は、どれも同じです。
更に言うと上記の1~4は作曲だけでなく、絵画や電子工作その他もろもろ、ともかく何かを「作る」技芸の教科書の全てに共通する事なのだろうとも思う。
ただ、絵の場合は過去の作品を真似る前に自然の模写の訓練をするとか、電子工作なら回路云々の話しの前に、やはり自然現象である電気そのものについて学習する、というような違いはあるものの、そういうジャンルごと特有の事情を除けば、作るための教科書の中身の大枠は概ねどれも同じ。
なぜそうなってしまうかと言うと、作る事、というより「作り出す事」、あるいは創作、それを方法として示そうとしても、教える側に出来る事は上記の1~4しかないからですね。
いやしかしそれだと過去作品の模倣、パロディ、パクりしか作れないではないか、と思う人は自分なりの作品論とか創作論を打ち立て、それを言葉ではなく作品で示せばよい。だけど有名な作家の作品論の類はこれまた、書籍やインタビュー記事の形で大量に出回ってるし、初心者用の教科書でも、その本の著者なりの創作論を匂わせつつ、まず最初に動機づけを行うことが多い(と思う)。例えば梅垣ルナ『イメージした通りに云々』なら、
曲によって情景や気持ちを表現できることがとても楽しい
のだという。それでイメージした通りに作曲する方法が50。著者による動機づけそのまんまの書名ですね。
『作曲少女』にも動機づけはあります。第一章「1日目 珠ちゃんと私」で、まずこれが説かれる。先に書いた「完全初心者が最初の一曲をなんとか作り上げる」というのは14日目までの取りあえずの目標設定だけど、もっと長期的な展望として(あるいは創作とは何かについての一般論として)、作曲するとはどういう事か?が説かれる。この問題は『作曲少女』での重要事項です。なんだけどその内容が、この本の中で私がどうしても承服できない点の一つなのだな。だからこの話は後回しにして、ともかく;
『作曲少女』が説く作曲法は過去の作品をテンプレートとして利用する方式で、それは他の本と同じ。
以上が『作曲少女』の、「他の諸々と同じ、ごく平凡な点」の説明でした。
では次に、「他の本にはない、ユニークな点」について。
作曲の教科書の中身をざっくり要約すると、
1.過去の作例を真似る技術を習得し、
2.それらを分析し法則性を導出し、
3.テンプレートとして利用可能な状態にまで抽象化し、
4.今現在の私にとって必要な形態に再構築する。
だけど上記1~4の内のどれに重きを置くかは本ごとに違います。
音大作曲科は入試に聴音とピアノ演奏があるから、それが出来ない人は入学できない(はず)。だから音大で使う教科書に「既製曲を真似る技術の習得」は一切含まれてない。
ポップス系の教科書のうち、「理論」重視の本は2.の分量が多く、一方『なになに作曲法』みたなタイトルの教科書は、3.と4.を主に解説する(んだと思う)。
既製曲を真似る技術、つまり読譜と耳コピは、ポップス系でもやはり大抵は、作曲法とは別枠の、それ専門の教科書になってる。
等々
なので『作曲少女』の「他の本にはない、ユニークな点」とは即ち、上記1~4のどこに重点があるか、あるいは1~4には含まれない要素があるかどうかという事になるのだけど、この本のサブタイトルは、
~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~
ですからこれ、1~2はすっ飛ばし、3~4をかんたんにやっつけちゃおうYO!ってなノリの本かと思うじゃないですか?
ところがそうじゃない。むしろ真逆。
この本の教程は意外なほど正攻法で、甘ちょろい系ではありません。14日間でというのも、たったそれだけで出来るからかんたんだよって事じゃなく、短期決戦でなきゃならないっていう方針がある故の14日間。知識不要がキャッチフレーズだけど、実は理論は必要なのだとも説かれてる。
そして『作曲少女』の中で最も多くの文字数が費やされてるのは、
1.過去の実例を真似る技術=耳コピが出来るようになる事
なんですね。これが『作曲少女』と他の本とが異なるユニークな点の第一。目次を見てみると;
1日目 珠ちゃんと私
2日目 それでも気になる理論の話
3日目 音楽と映画は結構似てるっていう話
4日目 耳コピの話
5日目 越えられない壁の話
6日目 続く人と、続かない人の話・前編
続く人と、続かない人の話・後編
7日目 最初の壁を越える話
8日目 耳コピ最大の難関の話
9日目 キーの話
10日目 メロディラインと構成の話
11日目 “珠ちゃんビックリ大作戦"の話
12日目 テクスチャーの話
13日目 作曲合宿の話・前編
14日目 作曲合宿の話・後編
全14章あるこの本の内、耳コピに充てられてるのは4日目から8日目までの5章分。珠ちゃんがいろはに教えた作曲法を整理すると、
「自分の好きなものを思い出す」
「音楽理論の意味と必要性」
「映画と作曲は似てる」
「耳コピのやり方」
「キー」
「メロディと構成」
「テクスチャー」
以上はp.255から引用。それに加え、
「コンセプトを明確化する」
というのもあると言えるし、
「実際に作る」
という過程もあるから都合、9つの課題が14日間に割り振られてるのだけど、その中で「耳コピ」だけに5章も使ってる。5/14≒1/3ですね。
この本の主人公は「楽器経験すらない初心者」で、それはつまり著者側が想定してる読者レベルがそこだという事ですけど、そういう人ならまず大抵、耳コピをした事はない。だからそれのやり方を教程に含めるのは理に適ってるというか、もしろ当然そうでなければならない。
なんだけど、耳コピが出来るかどうかなどは問題にせずとも作曲入門の本は書けます。というか先に述べたように耳コピの仕方の本は作曲法とは別カテゴリになってて、大抵の作曲の教科書では、耳コピの仕方の解説はしない。じゃあそれ、学習者が耳コピできる事が暗黙の前提になってるかというと、実はそうでもないのかも知れない。なぜかというと、耳コピが出来なくても「作曲っぽい事」は出来てしまうので。一番イージーなのは自動伴奏ソフトを使うやり方。
自動伴奏ソフト -google検索
伴奏のスタイル(音楽ジャンル)を選んでコード進行(という文字情報)を入力すればカラオケ完成。そこに「テキトー弾き」を被せれば一曲できあがり。って、流石にそこまで安直な教科書はないかもだけど、それに毛の生えた程度の本なら掃いて捨てるほど売り場に並んでるのかも。そういうのの方が売れるのかもですし。ですがともかく『作曲少女』は、耳コピをしっかりやる。有名な既製曲の一つを課題曲にして、
・メロディ
・ベース
・コード
の三要素を、初心者なりに出来るとこまでなんとかコピーします。本当はドラムもコピーしなきゃだけど日数の都合上、これだけはパソコンソフトの機能を利用して了。
なお、この本での耳コピ作業に用いる能力は、いわゆる相対音感です。絶対音感ではなくて相対音感。教わる側が10代半ばまで楽器経験なしだから当然そうなるし、教える側の珠ちゃんも絶対音感は持ってないという設定。
楽器経験はなくても絶対音感は持ってる、という人は稀にいますけど、つまりそれはレアケースなわけで、そういう人が『作曲少女』みたいな本を読む可能性は低いと想定しても問題なかろう。
っていうか、音楽を作るのに必要なのは相対音感の方だから、初心者はまず最初にこれを使えるようにしなければだし、初心者じゃない人もこの能力をより高めるよう日々努めねば。絶対音感は、まあ「あれば便利」というくらいのもの・・・・・
*)
と私は長らくそう思ってた。つまり絶対音感とは相対音感の高精度版みたいなもの、と。だけど実はそうではなく、この二つは全く異なる能力なのかも、という事を最近になって知りました。詳しくは↓のサイト等を参照。
「絶対音感の終焉」~Blog by 川本零~
・絶対音感を持ってる人とは、相対音感を持てなかった人。
・右能が未発達だから相対音感を持てなかった。
・絶対音感の人が用いる相対音感は、疑似的なもの。
・絶対音感は、あまり便利でもない。
・むしろ音楽を聴くには邪魔な能力。
等々、川本氏の記事内容は今のところ仮説でしかないっぽい事が大半ですけど、まあ仮に真だとすると、相対音感が無い絶対音感所有者が相対音感を得ようとしても、耳コピをいくらやっても無理なもよお。じゃあどうしたらいいのかって、それは難しい問題ですね。いわばこれ;
幼児期に母国語を覚え損ない、口真似だけの会話の真似事しかできないまま大人になった人に、中身のある会話とはどんなものかを改めて教えるようなもの。
かも知れない。しかし口真似だけでも一応会話の体(てい)を為してるなら、本人にそれが空っぽだという自覚はない。それに学校の試験勉強とかなら口真似が上手なだけでもそこそこの点数は取れますし。
「そこそこの点数」ってどの位かっていうと、いわゆる六大に入れるくらい?日本の大学は別名ばか製造機とか社畜の予備校とかとも呼ばれるアレ機関ですから、あたま空っぽな人材はむしろWellcome☆でございましょう。
だかなんだか、ともかくそんな調子で「今まで自分は上手くやってこれた。むしろ成績は良い方なんだ」と本人が考えてるなら、わざわざつらい思いをして別の事を学ぼうとはしない。
だから口真似だけの人に中身を入れ直すのは難しいし、絶対音感ってのもなんかそういうものだったら相対音感を得るのも難しいかもねって話しで、しかし以上の事は全て↑にリンクを貼った、その内容の大半は仮説にすぎないかも知れない川本氏の記事内容を基にした例え話しですし、それに『作曲少女』の内容ともほとんど関係ないというか、少なくとも絶対音感を持ってる音楽初心者がこの本を読むというケースは稀であろうから、べつにこんな事は気にせずともおk。
それでともかく;
『作曲少女』では耳コピに重きが置かれてる。これが他の初心者用教科書とは違う第一の特徴。
第二の特徴は、コードネームを用いないこと。
いやもちろん、いろはが完成させた曲にはコード伴奏が付いてます。
パソコンのDAWソフトに、まずメロディを入力し、次にベースを入力し、そして(たぶん白玉の)コード音を入力し、最後にドラムを入れて一曲完成。
この物語の最終2章=13~14日目で、以上の作業が行われる。ソフトへの入力は全て、いろは自身が行い、珠ちゃんは助言するだけ。
だからコード音を入力するのもいろはなのだけど、どの音にしようかと選ぶ際に、コードネームは一切用いないのです。結果、いろはは自分が付けたコードの名前は知らないまま。でもそれで曲は完成してしまう。
まあこの本はノベルなんでえ、ファンタジーなんでえ、だからそんなんでも出来ちゃう夢物語なんだろと思われるかもですけど、これは現実に可能。ほんとの話しです。ってもコード付けの作業に要した時間が約半日だったのはさすがにファンタジーというか、そこはページ数の都合とご理解ください。
*)既製曲をテンプレとして利用するから短時間で済むのでもあります。
それで著者はその、コードネームなど知らないままコード付けする方法を「テクスチャー」と名付け、この本の目玉商品、秘中の秘のテクニック(p.237~238)と呼んでる。その中身を具体的に書くのはネタバレだから概略だけを言うとこれ、西欧バロック期の作曲家たちが用いた和声付けの手法が何種類かある内の一つ;
ソプラノとバス、つまり外声2部を先に作ってから内声を埋める方式。
と大まかには同じ。つまりこの本の中でいろはは、17世紀頃の約100年間に大勢の作曲家たちがあーでもないこーでもないと工夫した足跡の一部を、ごく短期間で追体験した事になります。
バロック期にはまだコードネームはなく、数字付き低音という略号を用いてた。そして機能和声という考え方もまだ明確ではなかった。それでもパッヘルベルのカノンとかビバルディとか、ああいう曲は書かれてた。コードネームなんて知らなくても和声付けは可能なのです。
数字付き低音 -wiki
機能和声 -wiki
このやり方、作業効率は悪いですよ。でも、和声とは何かを身を以て知るにはコードの並べ方を知識として覚えるより、試行錯誤しながらでも最適解を探る行き方の方が良いのだよ本当は。こういう点もこの本、すごく正攻法なんですよねえ。
なお、「テクスチャー」は編曲術の入門も兼ねてます。
『作曲少女』が他の教科書とは違う第三の特徴は、どういう曲を作るつもりなのかの方針≒コンセプトを、事前に出来るだけ明確化、具体化する事。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とここですみませんがこの記事だいぶ長くなったので一旦〆ます。長すぎるせいか書き込みボックスの動作が重くなってきた。一応ここまでが自分が書くつもりの半分くらいなので、後半は後日に。なんか色々書いてますけど、『作曲少女』はほんと良い本だと思う。だからレビュー記事もそれなりにちゃんと書こうとしたらこんな事にw
梅垣ルナ『イメージした通りに作曲する方法50』
いかにもフラワー層向けって感じの商材でしたが、読んどいて良かったと思ってます。まあ、どんな本からでも何かしらは学べるもので。
だったらついでにもう一冊くらい似たようなのをと思い、『イメージした通り云々』よりも更に痛々しそうなふいんきの、↓の本を選んでみました。
仰木日向(著)/まつだひかり(イラスト);
『作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~』
ヤマハミュージックメディア
2016年6月24日初版
本体価格¥1600+税
発売日は去年の6月だから、わりと最近出たばかりの本です。
著者の仰木日向氏はラノベ作家。
仰木日向 作品一覧 著者略歴
そして「女子高生エフェクターを買いに行く」の、まつだひかり氏がイラスト担当。
女子高生エフェクターを買いに行く -YouTube
そして出版社はヤマハ。。。。。
ついにヤマハまでもがラノベに手を出してきました!!
ですがラノベってもうオワコンかもで、ちなみにオワコンは死語です。っても『作曲少女』はB6版。つまり文庫サイズより大きいので本当のラノベとは違います。お値段も1600円+ですし。ともかくそんな今頃になってラノベっぽい、だけど文庫サイズじゃない本を出してくる、このある意味とてもヤマハらしいずれたセンスに、私はハートを射貫かれました。ぜひともこれ読んでおかねば!
アマゾンのレビューは概ね好評のようで、それも読んでみようと思った理由の一つです。いや私的には取りあえず見た感じ的に良いわけがないように思われ、だから高評価してる人にとってはどこがどう良かったのか、自分で読んで確かめたい。
というか作曲の入門書はどれも似たり寄ったりで良いも悪いも無いのだけど、ただ『作曲少女』には、
・初心者がたったの14日間で作れるようになるという無茶設定
・音楽の知識は一切不要
・小説形式
という特徴があり、これは少々目新しい。つうかひどそう。でも「怖いもの見たさ」って気持ちは大事にしたいものですよね。図書館で借りれるなら読んどいて損は無かろう。で、好都合なことに文京区の図書館が蔵書してくれてたので、読んでみました。
その結果;
びっくりしました。この本はとても良いです。
客観的な良し悪しはさておき、私自身の好き嫌いで言うなら、とても好き。
ただ、全面的に手放しに良いとは言えない面があり、誰にでもおススメできるものでもない。
なので結論;
私にとってこの本は1/3の名著です。
1/3(さんぶんのいち)ってなんなんだよって話しですけど、皮肉ではありません断じてだ。1/3でも名著は名著。本気でそう思ってます。今回は借り物で済ませちゃったけど、いずれ改めて購入し私の蔵書に加えたい。なんだけど、
・まず第一に、私は作曲の初心者ではないので、この本が初心者のための教科書として優れてるかどうかは判断できません。
・そして第二に、私的にはどうしても承服できない点がいくつかあります。
・しかし第三、良いなと思える部分はとても良い。
以上をざっくり合計すると1/3の名著だっていう。ざっくりしすぎかもですけど。
ともかくこの本、も一度くり返しますけど良いなと思える部分はとても良い。だから少しくらいダメな点があっても気にしない。人の作ったものに対して完璧さなんて求めませんし。かつてマイルス・デイビスさんは仰いました。
「ジャズのレコードなんてたいていはクズ。アルバム1枚の中に本当にジャズらしい瞬間が8小節だけでも入ってたら、俺にとってはそれで十分名盤だね。」
*)ちょっとこれうろ覚え。ソースはロスト。大意は概ねこんなようだったって事で。
マイルス・デイビス -wiki
マイルスさんは毒舌家だから↑みたいな言い草になるのかもだけど、でもこれはホント彼の言う通りで、だってジャズのレコードなんてどれ聴いても退屈でしょ?ところが「そう感じるのは聴いてる自分が無能だから」と思ってしまうタイプの人はいるもので、そういう人ほどジャズ道に堕ちやすく云々てのはさておき;
ともかくほんの少しでも良いとこがあれば名盤だとするという作品観があるくらいなんだから、1/3も良いとこあれば、それはもう十分に名作だと申せましょう。だから『作曲少女』は名著。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
では、私が良いと思う1/3の要素は何かというとそれは、ノベルとしての魅力。この本は小説として優れてる。登場人物は、
教わる側=山波いろは;
「平凡」を辞書で調べたら私の写真が載ってるんじゃないかってくらいとにかく普通な高校2年生。山波は「やまなみ」と読みます。
教える側=黒白珠美;
くろしろたまみ。いろはのクラスメイト。すでにプロとして作曲家をやってる超人的な女子高生。愛称は珠ちゃん。
それと途中で少しだけ「テニス部で一番うまい子」というサブキャラが出てきて、これはかなり重要人物なのだけど、全体で正味約320ページある『作曲少女』の中で、その子が出てくるのはわずか8ページ。
あとはクラスのみんなとか家族とかのモブがほんの少し。
だからこの本の登場人物は事実上、いろはと珠ちゃんの二人だけ。いろはの主観で語る地の文と、途中一か所だけ珠ちゃんが語り手になる部分がある他は、二人の対話=会話文だけで構成されてます。ざっと見た感じ、「かぎかっこ」で囲われた会話体が80%くらいかな。
会話内容の大半は珠ちゃんによる作曲法の解説と、それを受けるいろはの疑問や戸惑い。そればかりでは単調で息が詰まりますから、まつだ氏による4コマ・マンガとイラスト数点が空気抜きの役割を。
他には補足説明用の図版が数ページ。DAWソフトの画像や鍵盤の模式図等はあるけど、五線譜はひとつもありません。
ちなみに『作曲少女』のページ数は、B5版で正味約320。だからこれ文庫サイズならたぶん上下2巻になって、お値段は2冊で1200円かそれ以上。だから単行本の1600円がとくべつ割高なのでもないですね。図版は文庫よりB5の方が見やすいですし。
クラスメイトにスーパー高校生がいるファンタジー設定。これはまあ、ラノベのテンプレ。
でも、その超人がとくに親しい間柄でもない主人公を気安く手助けしてくれるご都合主義は、なんか安直かな。
ともかくそこを起点にして、二人で「作曲」という課題に取り組む目的追求型ストーリーが展開されるのだけど、おそらく最終章=14日目で成功してハピエンドになるであろう結末は最初から見え透いてる、そんな大勝利物語。
なお、この物語の登場人物二人が目指してるのは「音楽に手も足も出せない完全初心者が、とにもかくにも最初の一曲をなんとか作り上げること」なので、その作曲レベルはとくにぜんぜん高くありません。歌詞のないインスト曲を作ります。
以上が『作曲少女』の、ノベルとしての基本スペック。
だったらこんなの、面白い物語になるわけがない、と思うじゃないですか?
ところがすごく面白い。初期設定での一番の弱点はご都合主義な所かと思うけど、しかしこれこそが、『作曲少女』を価値ある作品に変貌させるマジックの種になってるのだな。
この本の中身の大部分は、教わる側と教える側との対話。それでまず、教える側である珠ちゃんのセリフが出だしからいちいちカッコいい。ちょっと名言っぽいフレーズが小気味よく連射される。
なんだけど、それをレビュー記事でこまこま紹介するのは意味ないし、というかそれをするとただのネタバレだし、そういう「ちょっといい一言」の類はこの本を時どき拾い読みして楽しむのでいい。だからこそ私は、この本を自分の座右に置いときたいと思うのだし。
ともかく、珠ちゃんのかっこいいセリフは良い掴みです。私はまずこれで作品内に引き込まれた。この本はありがちな初心者本とはちょっと違うかも知れない、と思わせるものがある。
とはいえ名言ぽいフレーズが沢山あるというだけでは名著とまでは呼べない。『作曲少女』を面白くしてる原動力は、もう一段奥にある。というか珠ちゃんのセリフは、なぜか不思議なほど効く、刺さってくる。その理由を探るためため私はこの本を軽く分析し、その結果、この本は初心者だけでなく経験者も面白く読めて共感できる構造になってると判明。そこが私にとっての名著要素である1/3なのだけど、この件をちゃんと説明しようとするとやはりどうしてもネタバレ度が増してしまうし、『作曲少女』はあくまでも初心者のための教科書なのだという建前からすると、経験者にとっても面白い要素は副次的なものに過ぎないかもだし、だからこの記事では名著ではない2/3の方の説明を先に済ませ、ノベルとしての魅力云々は最後の方へ。そこまで読み進めようと思う物好きな人の目にだけ触れる場所に置いておく事にいたします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
という事でまず第一に、私は作曲の初心者ではないから、『作曲少女』が初心者にとって良いかどうかは分からないという点について。
◆ ◆ ◆
いちおう自分の事を説明しておくと、私は小学生後半の頃に楽譜の読み書きと楽器の弾き方を覚え(ギターと電子オルガン)、それで早速一曲作ってみたというパターンの人でした。そこまでは全て独学。当時、自分の身近には大人も子供も、音楽やる人間なんていなかったし、学校の音楽の先生は歌声運動上がりのフラワー左翼だったから云々
中学になってからはブラバンに入り、ギター等を弾く同級生も増え始め云々
30歳になる少し前だったかにジャズ教室へ通い、そこでいわゆるジャズ理論を教わり、その後少ししてから↓の2冊、
それといわゆる芸大系の教科書を何冊か読み、あとは最近になって『イメージ通り云々』と『作曲少女』の2冊を読んだ。
世にあまた出回ってる初心者のための作曲本のうち、私が読んだのは以上の数冊のみ。だからこういった本一般の中身についてよく知ってるとは言えないのだけど、『作曲少女』には初心者用の教本として
・他の諸々と同じ、ごく平凡な点と
・他の本にはない、ユニークな点
の2面があると思う。でまず平凡な点について書くと、この本で説かれる作曲法は;
「既にある作品、既製曲、有名曲、に倣って、それをテンプレートとして利用する。」
というもので、それは他の初心者向け教材と何ら変わらない。これはポップスのお軽い教科書だけじゃなく、音大作曲科の学生用の本とか、ジャズ教室で使うテキストだって中身は同じ。
1.過去の作例を真似る技術を習得し、
2.それらを分析し法則性を導出し、
3.テンプレートとして利用可能な状態にまで抽象化し、
4.今現在の私にとって必要な形態に再構築する。
templateの意味 -weblio、 テンプレート (曖昧さ回避) -wiki
作曲の教科書に書かれてるのは、その本の見た目が高尚で難しそうであろうと、ペラいフラワーであろうと、全て概ね↑のような内容で、ただ、
・学習者を導入するための切り口とか、
・雰囲気作りとか、
・特定のジャンルに特化してるかどうかとか、
・目標設定とか
が、それぞれ違うだけ。あと上記1~4のどれに重きを置くかもいろいろ。だけど基本、作曲の教科書の中身、というか正味の部分は、どれも同じです。
更に言うと上記の1~4は作曲だけでなく、絵画や電子工作その他もろもろ、ともかく何かを「作る」技芸の教科書の全てに共通する事なのだろうとも思う。
ただ、絵の場合は過去の作品を真似る前に自然の模写の訓練をするとか、電子工作なら回路云々の話しの前に、やはり自然現象である電気そのものについて学習する、というような違いはあるものの、そういうジャンルごと特有の事情を除けば、作るための教科書の中身の大枠は概ねどれも同じ。
なぜそうなってしまうかと言うと、作る事、というより「作り出す事」、あるいは創作、それを方法として示そうとしても、教える側に出来る事は上記の1~4しかないからですね。
いやしかしそれだと過去作品の模倣、パロディ、パクりしか作れないではないか、と思う人は自分なりの作品論とか創作論を打ち立て、それを言葉ではなく作品で示せばよい。だけど有名な作家の作品論の類はこれまた、書籍やインタビュー記事の形で大量に出回ってるし、初心者用の教科書でも、その本の著者なりの創作論を匂わせつつ、まず最初に動機づけを行うことが多い(と思う)。例えば梅垣ルナ『イメージした通りに云々』なら、
曲によって情景や気持ちを表現できることがとても楽しい
のだという。それでイメージした通りに作曲する方法が50。著者による動機づけそのまんまの書名ですね。
『作曲少女』にも動機づけはあります。第一章「1日目 珠ちゃんと私」で、まずこれが説かれる。先に書いた「完全初心者が最初の一曲をなんとか作り上げる」というのは14日目までの取りあえずの目標設定だけど、もっと長期的な展望として(あるいは創作とは何かについての一般論として)、作曲するとはどういう事か?が説かれる。この問題は『作曲少女』での重要事項です。なんだけどその内容が、この本の中で私がどうしても承服できない点の一つなのだな。だからこの話は後回しにして、ともかく;
『作曲少女』が説く作曲法は過去の作品をテンプレートとして利用する方式で、それは他の本と同じ。
以上が『作曲少女』の、「他の諸々と同じ、ごく平凡な点」の説明でした。
◆ ◆ ◆
では次に、「他の本にはない、ユニークな点」について。
作曲の教科書の中身をざっくり要約すると、
1.過去の作例を真似る技術を習得し、
2.それらを分析し法則性を導出し、
3.テンプレートとして利用可能な状態にまで抽象化し、
4.今現在の私にとって必要な形態に再構築する。
だけど上記1~4の内のどれに重きを置くかは本ごとに違います。
音大作曲科は入試に聴音とピアノ演奏があるから、それが出来ない人は入学できない(はず)。だから音大で使う教科書に「既製曲を真似る技術の習得」は一切含まれてない。
ポップス系の教科書のうち、「理論」重視の本は2.の分量が多く、一方『なになに作曲法』みたなタイトルの教科書は、3.と4.を主に解説する(んだと思う)。
既製曲を真似る技術、つまり読譜と耳コピは、ポップス系でもやはり大抵は、作曲法とは別枠の、それ専門の教科書になってる。
等々
なので『作曲少女』の「他の本にはない、ユニークな点」とは即ち、上記1~4のどこに重点があるか、あるいは1~4には含まれない要素があるかどうかという事になるのだけど、この本のサブタイトルは、
~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~
ですからこれ、1~2はすっ飛ばし、3~4をかんたんにやっつけちゃおうYO!ってなノリの本かと思うじゃないですか?
ところがそうじゃない。むしろ真逆。
この本の教程は意外なほど正攻法で、甘ちょろい系ではありません。14日間でというのも、たったそれだけで出来るからかんたんだよって事じゃなく、短期決戦でなきゃならないっていう方針がある故の14日間。知識不要がキャッチフレーズだけど、実は理論は必要なのだとも説かれてる。
そして『作曲少女』の中で最も多くの文字数が費やされてるのは、
1.過去の実例を真似る技術=耳コピが出来るようになる事
なんですね。これが『作曲少女』と他の本とが異なるユニークな点の第一。目次を見てみると;
1日目 珠ちゃんと私
2日目 それでも気になる理論の話
3日目 音楽と映画は結構似てるっていう話
4日目 耳コピの話
5日目 越えられない壁の話
6日目 続く人と、続かない人の話・前編
続く人と、続かない人の話・後編
7日目 最初の壁を越える話
8日目 耳コピ最大の難関の話
9日目 キーの話
10日目 メロディラインと構成の話
11日目 “珠ちゃんビックリ大作戦"の話
12日目 テクスチャーの話
13日目 作曲合宿の話・前編
14日目 作曲合宿の話・後編
全14章あるこの本の内、耳コピに充てられてるのは4日目から8日目までの5章分。珠ちゃんがいろはに教えた作曲法を整理すると、
「自分の好きなものを思い出す」
「音楽理論の意味と必要性」
「映画と作曲は似てる」
「耳コピのやり方」
「キー」
「メロディと構成」
「テクスチャー」
以上はp.255から引用。それに加え、
「コンセプトを明確化する」
というのもあると言えるし、
「実際に作る」
という過程もあるから都合、9つの課題が14日間に割り振られてるのだけど、その中で「耳コピ」だけに5章も使ってる。5/14≒1/3ですね。
この本の主人公は「楽器経験すらない初心者」で、それはつまり著者側が想定してる読者レベルがそこだという事ですけど、そういう人ならまず大抵、耳コピをした事はない。だからそれのやり方を教程に含めるのは理に適ってるというか、もしろ当然そうでなければならない。
なんだけど、耳コピが出来るかどうかなどは問題にせずとも作曲入門の本は書けます。というか先に述べたように耳コピの仕方の本は作曲法とは別カテゴリになってて、大抵の作曲の教科書では、耳コピの仕方の解説はしない。じゃあそれ、学習者が耳コピできる事が暗黙の前提になってるかというと、実はそうでもないのかも知れない。なぜかというと、耳コピが出来なくても「作曲っぽい事」は出来てしまうので。一番イージーなのは自動伴奏ソフトを使うやり方。
自動伴奏ソフト -google検索
伴奏のスタイル(音楽ジャンル)を選んでコード進行(という文字情報)を入力すればカラオケ完成。そこに「テキトー弾き」を被せれば一曲できあがり。って、流石にそこまで安直な教科書はないかもだけど、それに毛の生えた程度の本なら掃いて捨てるほど売り場に並んでるのかも。そういうのの方が売れるのかもですし。ですがともかく『作曲少女』は、耳コピをしっかりやる。有名な既製曲の一つを課題曲にして、
・メロディ
・ベース
・コード
の三要素を、初心者なりに出来るとこまでなんとかコピーします。本当はドラムもコピーしなきゃだけど日数の都合上、これだけはパソコンソフトの機能を利用して了。
なお、この本での耳コピ作業に用いる能力は、いわゆる相対音感です。絶対音感ではなくて相対音感。教わる側が10代半ばまで楽器経験なしだから当然そうなるし、教える側の珠ちゃんも絶対音感は持ってないという設定。
楽器経験はなくても絶対音感は持ってる、という人は稀にいますけど、つまりそれはレアケースなわけで、そういう人が『作曲少女』みたいな本を読む可能性は低いと想定しても問題なかろう。
っていうか、音楽を作るのに必要なのは相対音感の方だから、初心者はまず最初にこれを使えるようにしなければだし、初心者じゃない人もこの能力をより高めるよう日々努めねば。絶対音感は、まあ「あれば便利」というくらいのもの・・・・・
*)
と私は長らくそう思ってた。つまり絶対音感とは相対音感の高精度版みたいなもの、と。だけど実はそうではなく、この二つは全く異なる能力なのかも、という事を最近になって知りました。詳しくは↓のサイト等を参照。
「絶対音感の終焉」~Blog by 川本零~
・絶対音感を持ってる人とは、相対音感を持てなかった人。
・右能が未発達だから相対音感を持てなかった。
・絶対音感の人が用いる相対音感は、疑似的なもの。
・絶対音感は、あまり便利でもない。
・むしろ音楽を聴くには邪魔な能力。
等々、川本氏の記事内容は今のところ仮説でしかないっぽい事が大半ですけど、まあ仮に真だとすると、相対音感が無い絶対音感所有者が相対音感を得ようとしても、耳コピをいくらやっても無理なもよお。じゃあどうしたらいいのかって、それは難しい問題ですね。いわばこれ;
幼児期に母国語を覚え損ない、口真似だけの会話の真似事しかできないまま大人になった人に、中身のある会話とはどんなものかを改めて教えるようなもの。
かも知れない。しかし口真似だけでも一応会話の体(てい)を為してるなら、本人にそれが空っぽだという自覚はない。それに学校の試験勉強とかなら口真似が上手なだけでもそこそこの点数は取れますし。
「そこそこの点数」ってどの位かっていうと、いわゆる六大に入れるくらい?日本の大学は別名ばか製造機とか社畜の予備校とかとも呼ばれるアレ機関ですから、あたま空っぽな人材はむしろWellcome☆でございましょう。
だかなんだか、ともかくそんな調子で「今まで自分は上手くやってこれた。むしろ成績は良い方なんだ」と本人が考えてるなら、わざわざつらい思いをして別の事を学ぼうとはしない。
だから口真似だけの人に中身を入れ直すのは難しいし、絶対音感ってのもなんかそういうものだったら相対音感を得るのも難しいかもねって話しで、しかし以上の事は全て↑にリンクを貼った、その内容の大半は仮説にすぎないかも知れない川本氏の記事内容を基にした例え話しですし、それに『作曲少女』の内容ともほとんど関係ないというか、少なくとも絶対音感を持ってる音楽初心者がこの本を読むというケースは稀であろうから、べつにこんな事は気にせずともおk。
それでともかく;
『作曲少女』では耳コピに重きが置かれてる。これが他の初心者用教科書とは違う第一の特徴。
◆ ◆ ◆
第二の特徴は、コードネームを用いないこと。
いやもちろん、いろはが完成させた曲にはコード伴奏が付いてます。
パソコンのDAWソフトに、まずメロディを入力し、次にベースを入力し、そして(たぶん白玉の)コード音を入力し、最後にドラムを入れて一曲完成。
この物語の最終2章=13~14日目で、以上の作業が行われる。ソフトへの入力は全て、いろは自身が行い、珠ちゃんは助言するだけ。
だからコード音を入力するのもいろはなのだけど、どの音にしようかと選ぶ際に、コードネームは一切用いないのです。結果、いろはは自分が付けたコードの名前は知らないまま。でもそれで曲は完成してしまう。
まあこの本はノベルなんでえ、ファンタジーなんでえ、だからそんなんでも出来ちゃう夢物語なんだろと思われるかもですけど、これは現実に可能。ほんとの話しです。ってもコード付けの作業に要した時間が約半日だったのはさすがにファンタジーというか、そこはページ数の都合とご理解ください。
*)既製曲をテンプレとして利用するから短時間で済むのでもあります。
それで著者はその、コードネームなど知らないままコード付けする方法を「テクスチャー」と名付け、この本の目玉商品、秘中の秘のテクニック(p.237~238)と呼んでる。その中身を具体的に書くのはネタバレだから概略だけを言うとこれ、西欧バロック期の作曲家たちが用いた和声付けの手法が何種類かある内の一つ;
ソプラノとバス、つまり外声2部を先に作ってから内声を埋める方式。
と大まかには同じ。つまりこの本の中でいろはは、17世紀頃の約100年間に大勢の作曲家たちがあーでもないこーでもないと工夫した足跡の一部を、ごく短期間で追体験した事になります。
バロック期にはまだコードネームはなく、数字付き低音という略号を用いてた。そして機能和声という考え方もまだ明確ではなかった。それでもパッヘルベルのカノンとかビバルディとか、ああいう曲は書かれてた。コードネームなんて知らなくても和声付けは可能なのです。
数字付き低音 -wiki
機能和声 -wiki
このやり方、作業効率は悪いですよ。でも、和声とは何かを身を以て知るにはコードの並べ方を知識として覚えるより、試行錯誤しながらでも最適解を探る行き方の方が良いのだよ本当は。こういう点もこの本、すごく正攻法なんですよねえ。
なお、「テクスチャー」は編曲術の入門も兼ねてます。
◆ ◆ ◆
『作曲少女』が他の教科書とは違う第三の特徴は、どういう曲を作るつもりなのかの方針≒コンセプトを、事前に出来るだけ明確化、具体化する事。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とここですみませんがこの記事だいぶ長くなったので一旦〆ます。長すぎるせいか書き込みボックスの動作が重くなってきた。一応ここまでが自分が書くつもりの半分くらいなので、後半は後日に。なんか色々書いてますけど、『作曲少女』はほんと良い本だと思う。だからレビュー記事もそれなりにちゃんと書こうとしたらこんな事にw
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- テーマ:作詞・作曲
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